Cosmos International
 Mail : desk@nepal-news.net
ネパールの電力事情 ”どうなる電力不足”
2008年9月30日

 電力の不足は産業界のみならず一般市民生活に多大の苦難を強いているが、政治家がアドバルーンを揚げているように簡単には解決しそうもない問題のようである。

 幸いなことにJICAの電力開発専門家である尾崎 行義氏がネパール政府水資源省のNEA(Nepal Electricity Auhtority)に電力開発で勤務しておられるのでお話しを伺い、かつ専門家としてのご意見を寄稿して頂いた。資料とあわせて参考にして頂きたい。

 尾崎 行義(JICA派遣電力開発専門家)

 本紙面をお借りしてネパールの電力事情についてお話させて頂きます。

 現在河川流量の多い雨季にも係わらず、週31時間の計画停電を強いられていますが、迫り来る乾季にどうなるかのか、数年先にはどう予測されるのかについてお話いたします。

1. はじめに

 ネパールの全ての河川(6,000以上)は大河ガンジス川
   1.流域面積 1,083,000km2
   2.流域延長 2,500km
   3.平均流量 14,300m3/s
へ流入し、その河川流量の4割以上(乾季には7割以上)をネパールから流下する河川が占めている。まさに”聖なるガンジス”の源であります。

 これら河川が生み出す”白い石炭”あるいは”白い石油”と称せられる水資源の発電ポテンシャル(包蔵水力)は83,000MW、そのうち技術的、経済的に開発可能な包蔵水力は42,000MWと言われているが、今までに開発された水力発電設備は564MW(但し総発電設備力はデイーゼルを含めて617MW)にすぎず、残り90%以上が未開発(未利用)の状態にある。

 昨今クリーン・エネルギーである水力発電は世界的に見直されており、ネパールの水力開発も地球温暖化対策の一環として注目されている。


2. ネパールと南アジア諸国の電力事情比較

 表−南アジア諸国の主な電力統計指標は、(社)海外電力調査会が2006年末現在の南アジア諸国の電力状況をまとめたものである。

 2006年末時点の総発電設備容量は616MWにすぎず、これは最新鋭の原子力発電所あるいは大型火力発電所の一基(1,000MW〜1,300MW)分にも満たない設備容量である。これら発電所で発生した電気は約800万人に供給され、残り約1,800万人は未だに電気の恩恵に浴せずケロシンランプや薪に依存した生活を強いられている。

 ネパールには小規模の火力発電所(ディーゼル)がヘトウダとビラトナガール近郊にあるがこれら2箇所の発電所は緊急時一時的に運転されるのみで、年間を通した発生電力量からみると100%水力発電に依存していると言っても過言ではない。ネパール政府は今後とも貴重な水資源を有効活用する水力発電開発を唯一の政策目標として掲げている。

 他の南アジア諸国の電力状況と比較すると一人当たりの消費(販売)電力量が最も少なく、また電化率(30%)も南アジア諸国の中で最低ランクに位置しており、ありあまる包蔵水力を有しながら最も電化の遅れた(言い換えれば、経済活動の不活発な)国であることが分かる。

 一方、平均販売単価を見るとネパールが最も電気料金が高く、インドの1.17倍、バングラデッシュの1.55倍、ブータンの3.34倍の電気料金単価が設定されている。これは、
@ 総発電量の三分の一を占めるIPP(独立発電業者ー民間投資者)からの購入単価が高い。
A 外国からの資金援助(通常1%前後の金利)を受ける場合、ネパールは借り手であるNEA(Nepal Elictricity Authority)に対し2ステップローン(現在は8%)を適用している。
B 小規模発電所が山間僻地に点在しスケールメリットが無い。
 などの理由によるものである。

 参考までに、ネパールの主な発電所の位置を示しておく。なお、図中のMiddle Marsyangdi(70MW) ,Chanmelia(30MW), KUlekhani V(14MW) は現在建設中の発電所である。


3. 今後の需給バランス予測

 2007/08年度の最大ピーク需要は2007年12月31日に発生し、約720MWであった。過去のピーク需要も冬期の12月あるいは1月に発生しており、年8.9%の実績伸び率を示している。NEAの電力需要予測によると、今後10年間で年率9〜10%の需要増が見込まれており、2011/12年度には1,000MW、2019/20年度で2,000MWを超えるピーク需要が想定される。

 一方、供給サイドの発電設備能力は2007年12月31日現在で総計551MW(当日の発電設備出力:450MW、インドからの電力輸入:101MW)であり、ピーク需要720MWとの差169MWが供給電力不足となり、Load Shedding(計画停電)を行っている。2007/08年度の停電時間は最大48時間/週であった。

 現在建設中の主な発電所は、Middle Marsyangdi(70MW,2008/09年完成予定)、Chamelia(30MW、2011/12年完成予定)とKulekhani III(14MW、2011/12年完成予定)の3地点のみであり、2011/12年現在での供給可能設備出力は小規模IPPによる発電およびインドからの電力輸入を合わせても710MW程度と予想され、ピーク需要1,057MWに遠く及ばず、その差344MW分は計画停電を余儀なくされる(停電時間が長くなる)こととなろう。

 その後Upper Trishuli 3A(60MW)、Upper Tamakoshi(309MW)、Upper Seti(127MW)、等NEAが現在計画中のプロジェクトやインドなどの民間企業が開発しようとしているArun III(402MWうち、ネパール分88MW)、Upper Karnali(300MWうち、ネパール分36MW)、West Seti(750MWうち、ネパール分75MW)、等BOOT(あるいはIPP)プロジェクトが計画通り順調に完成すれば、2014/15年頃には深刻な電力不足も相当解消されるもと期待される。

 図−Power Demand and Supply Balanceは各年毎の電力需要と供給可能力の推移を予測したものであり、需要曲線と供給曲線の開きがすなわち電力不足(計画停電)分となる。開きが大きくなる程、電力不足が深刻化する。(今後、2012/13年にかけ年々その深刻さが増す)ことを示している。また、図−主な水力発電予定地(大規模水力計画を含む)は2016/17年頃までに完成が着たいされるプロジェクトサイト、出力、完成予想年を示す(白抜き地点を除く)。


おわりに

 結論として、以下のことが予想されます。
@ 今年の暮れから例年にかけての乾期は、ほぼ07/08年と同程度の電力不足(計画停電)になる。
A その後、09/10年から12/13年にかけ、電力不足がその激しさを増す(年々、停電時間が長くなる)。
B 現在計画されているプロジェクトが順調に進めば、13/14年以降の電力不足は相当解消する。

 最後に、先日”プラチャンダ”首相がインドを訪問した際、今後10年間で10,000MWの水力開発を行う旨の発言をしている。ネパールの貧困削減、経済発展の原動力としてこの世界で数少ない豊かな包蔵水力(クリーンエネルギー)を大いに活用されんことを期待してやまない。



戻る
Copyright (C) 2008 Cosmos International All Rights Reserved